第5回

失明原因第1位は糖尿病網膜症

 

 糖尿病は、ブドウ糖を燃やすために必要なインスリンが全身で働きにくくなったり、インスリン量が足らなくなったため、血液中のブドウ糖が異常に多く(血糖値が高く)なる状態をいいます。生活習慣と無関係に発症する遺伝性素因の強い1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)や生活習慣が発症に大きく関与する2型糖尿病(非インスリン依存性糖尿病)がありますが、わが国では後者の2型糖尿病が大多数です。

 糖尿病患者は、平成9年度糖尿病実態調査によると糖尿病が強く疑われる人は690万人、その可能性を否定できない人を合わせると、実に1370万人と推定されています。しかし、医療機関に受診しているのは218万人にすぎません。つまり糖尿病を知っていても治療せず放置している人が多いのです。このため、生活習慣を見直せば切り抜けられる段階をすぎ、重症となってしまいます。

 高血糖が長期間続くと全身の血管壁に負担がかかります。つまり糖尿病は血管病ともいえます。その結果、糖尿病腎症、糖尿病網膜症・白内障、糖尿病神経症、脳卒中や心筋梗塞などの糖尿病合併症が多発し、場合によっては死亡の原因となります。

 

○糖尿病性網膜症の治療

 次にこれらの合併症のひとつである糖尿病網膜症について説明します。糖尿病網膜症は、わが国の失明原因の第1位です(図1)。病初期には視力低下、暗点などの自覚的症状が乏しく、気づいたときにはすでにかなり進行し、医師から「どうして、これまで放っていたのか」と叱責される光景によく遭遇します。

 

 

図1 失明原因

 

 なぜ、このようなことが起こるのでしょう。眼の網膜の構造を理解すればすぐにわかります。視力に最も関係する網膜黄斑部の中心窩には血管がありません(図2)。したがって、血管病である糖尿病は初期にはこの部位には病変ができません。この中心窩付近の大きな出血がなければ視力低下は生じず、自覚症状がでにくいのです。

図2 眼底(右)

 

 糖尿病網膜症の好発部位は血管の豊富な他の部位です。糖尿病網膜症は、単純網膜症、前増殖網膜症と増殖網膜症に分けられています。単純網膜症の治療は内科的治療が主です。

 糖尿病網膜症は血糖値に影響されます。日々の血糖値はいうまでもありませんが、長期間の状態を示唆するHbA1cが重要です。10年以上の糖尿病歴で、HbA1cが7%以上であると増殖網膜症になる可能性は非常に高くなります。網膜症の増悪を防ぐには長期間の血糖値の安定が肝要です。また、血糖値のコントロールは徐々に行うことが重要で、急激な血糖値のコントロールや低血糖発作などのような血糖値の変動は網膜症を悪化させるといわれています。

 したがって、例えば糖尿病患者の白内障手術では、まず血糖値を200mg/dL以下にすることを目的にします。そして数か月をかけHbA1cを7%以下にします。しかし、増殖型糖尿病網膜症の光凝固のため緊急性があるときは、この限りではありません。眼科医が糖尿病網膜症の治療を開始する時期は蛍光眼底検査で決定されるべきですが、大略には前増殖網膜症を示唆する軟性白斑が出現したら光凝固(レーザー治療)を開始します(図3)。

 

図3  前増殖網膜症(軟性白斑出血)を認める

 

 このとき忘れてならないことは「良好な内科的コントロールがなされ、適切な眼科的治療が行われれば失明は防げること」を患者に十分伝えることです。ただ、「あなたは糖尿病網膜症です。治療しましょう」といっただけでは、患者は「失明の宣告」を受けたと勘違いします。私も痛い目にあった経験が多々あります。現代医療ではインフォームド・コンセントが大切とされ、患者にそれを告げるときにも将来に希望があることをいい添えることも忘れてはなりません。

 「内科と眼科が協力してあなたの病気をうまく治療できれば、失明は防げます。そのためにはあなたも頑張りましょう」と語り、「いま持っている視機能を最大限に活用すれば、十分に日常生活が可能となる方法(ロービジョンケア)がある」ことも話すべきです。これまでの眼科医療においては、治療のみが優先され、このケアのことが全く説明されていません。

 とくに、糖尿病網膜症などを治療中の患者さんは、治療に専念したいからとの理由で、彼らの頭のなかには日常生活での不自由は二の次との考えがあります。このような患者の心理を理解したうえで、私たちは対応すべきであると考える眼科医が増えつつあります。このように、21世紀は「治療とケア」の時代であると確信しています。

 

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